脳卒中の話 その② 〜脳卒中が発症したら〜 【山吹薫の昔の話】

山吹薫の昔の話

山吹薫は両隣に置かれた紙袋を避けながらカルテを再び覗き込む。なんでこうも大量のお土産がいるものかと疑問にも思う。

山吹 薫
山吹 薫

しかしこんなにお土産だなんて・・・食べ切れるのですか?

石峰 優璃
石峰 優璃

そうか?貰えるだけ有難いものだよ。お菓子は幾ら有っても困らない。

高橋 美奈
高橋 美奈

そうよねー。そして主任ちゃんはなんで食べても食べても太らないのかしら・・・

さぁな。と石峰優璃は腕を組み、それについて考えているようであった。その姿を見て高橋美奈はもう一度ため息をつく。

高橋 美奈
高橋 美奈

まぁそれは置いておいて、薫ちゃんのお話の続きを聞かなきゃね。

石峰 優璃
石峰 優璃

そうだな。それでもし発症したとしてどうなるんだ?

山吹 薫
山吹 薫

もちろん早期発見と早期治療が必要です。もちろん予防も必要で発症しないことに越した事はありませんが。

発症してしまったら其れから先の事を考えなければいけない。脳裏には何時だって祖父が倒れた時の事が浮かぶ。

山吹 薫
山吹 薫

救急搬送された後、もし其れが軽度で有れば保存療法で経過を見られる事もあります。手術には侵襲もあり合併症のリスクもあります。そして逆に疾患が高度に進んでいると・・・悲しい事ですが手の施しようが無いという事もあります。

石峰 優璃
石峰 優璃

難しものだがな。だけども常に医療の世界も進歩している。例えば脳梗塞の発症後、長くて4、5時間以内ならば rt-PA(アルテプラーゼ)という治療がある。これは梗塞の原因となった血栓を強力に溶かして脳の血流を再開させるというものだ。これによって麻痺が出現しても軽度となる事も多い。

高橋 美奈
高橋 美奈

でもね。同時に出血も止まりにくくなるというリスクもあるから、これはお医者さんがしっかりと判断してくれるから安心してね。

ですね。と山吹は答える。祖父が倒れた時には、自分を含めて誰も気が付かずに随分と時間が経っていた。其れだけは後悔しても仕切れない。

山吹 薫
山吹 薫

そして出血であった場合、それが高度であった場合には脳の内圧を減らすといった治療が行われます。血腫をドレナージ・・・回収したり緊急的に開頭し、頭蓋骨を外して減圧するといった事でしょうか。

高橋 美奈
高橋 美奈

そうね。軽度な場合には出血が吸収される事が選択される事もあるし、こればっかりにはその時の判断となる事もあるわね。どの疾患でもそうでも命に関わる事なんだから。そしてその先の生活にもね。

石峰 優璃
石峰 優璃

他にも出血の原因となる腫瘤、脳の動脈の一部が破綻し瘤となった部分をクリップで留めるクリッピング術もまた方法の一つだな。ともかく出血を止めない事には、そして脳の圧を減らし脳への血流を確保しなければならない。そして我々はその程度を知り重症度を共有しなければならない。

もし昔ではなく今、祖父が倒れたとして自分に何ができるのだろうかと思う。手術は出来ないけれど直ぐに対応できたかもしれないと山吹は思う。

石峰 優璃
石峰 優璃

先ずは命が救われなければ、その先は考えられないからな。他にも脳へ至る首回りの血管が細いと脳の血流量を大きく左右する。よってCAS(頚動脈ステント留置術)という方法で、血管を広げる方法も並行して取られる事もある。

高橋 美奈
高橋 美奈

そうそう。血管の中を押し広げる筒の様なものを入れるの。予後にも関係するから確認しておく様にね。

山吹 薫
山吹 薫

リハビリを行う上でもどういった状態の人に、どういった治療が取られて経過や重症度はどうか、といった確認も必要ですもんね。

だな。と石峰は尊大な笑みを浮かべる。その心の奥底に何があるのかは分からない。もしずっと前に出会えていれば何かが変えられたのだろうか。

山吹 薫
山吹 薫

それでもやっぱり早期にその状態が発見できていれば、リスクを伴う手術を選択せずには済むのですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

その時の病態にも寄るがな。自分自身では気が付けない事だし、もし気が付いたとしても、そこから直ぐに行動に移せるかどうかは別の問題かもな。

高橋 美奈
高橋 美奈

悩ましい所よね。でも周りの人が何かがおかしい・・・そう思った時には既に何かが起きているものなのよ。

誰かがそばに居たらだな。と山吹はそう思う。それは結局、運頼みという事かもしれない。その表情をちらりと高橋は見て話を続ける。

高橋 美奈
高橋 美奈

良くあるのが、いつもと話し方がおかしい、手足の動きがぎこちない、なかなか目を覚まさないと言った所かしらね?そこで家族が救急要請を行う事も良く聞くわ。

石峰 優璃
石峰 優璃

知らなければそのままで済ませるかもしれないけれど、知っておけばそれが危険だという事がわかる。何事もだけどな。

山吹 薫
山吹 薫

その為に今は調べれば、分かりやすい資料が沢山手に入りますし、テレビでも若干不安を煽る内容ですが。

石峰 優璃
石峰 優璃

たとえ一人でも定期的な検診などでリスクを自覚している事が必要だよ。何かが起こる前に予防出来ればそれに越した事はない。

そうだよな。と山吹は思う。今更過去は変え得られないが、この先の事はどうとでもなる。生きてさえいれば。

石峰 優璃
石峰 優璃

しかし交通外傷や事故といった事で脳に多大なダメージを残す事もある事を知らなければならない。そして脳卒中に対しての治療中にもまた様々なリスクを予防しながら、リハビリテーションを行わなければならない。

高橋 美奈
高橋 美奈

そうよね。その為に私たちも色々勉強しなきゃならないから、時間はいくらあっても足りないわ。そして大切なのはそれを医療従事者だけの知識にしない事ね。

山吹 薫
山吹 薫

その為にこうやって僕に説明させているんですか?

その問いに石峰は、半分だけ正解だなと答える。眉をしかめる山吹を見て高橋は、にゃるほど・・・と口元だけで言葉をもらした。

山吹薫の覚え書 33

・脳卒中の発症後に先ずは救命の為に治療は行われる。軽度であれば保存療法が選択される。

・リスクを自覚し、共有し、何かが起きた時に行動できるようにしておく。

・今の僕なら何かが変えれるのだろうか。

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。』

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理学療法士。作家。つむぎ書房より『看取りのセラピスト』を出版。理学療法士としては、回復期から亜急性期を経て、ICUを中心に働き内部障害を中心に患者へと関わる。ご連絡はこちらからも→Xアカウント(旧Twitter)@tanakan56954581 他にも多くの小説ストックあります。

ちなみに千奈美さんの第一話はこちらから

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